昼過ぎから親に会ってきた。説教もされず、うちのと別れろとか病院を変えろなどの主張もされず、実に和やかに、拍子抜けする程に穏やかな数時間を過ごしてきた。都内某鰻屋で待ち合わせて、両親と会食。近況報告と主用であった郵便物の受取。風邪、大丈夫? と問われ、ちっとも大丈夫ではないけれど押し隠して、大丈夫、と答えた。出かける際、うちのにもらったピアスをつけていったところ親が気付き、それかわいいね。うちのにもらった。ここから少しうちのの話。でもその中でうちのへの悪口などは出ず、どこも不況だし大変だねえ、と。鰻、美味でした。デザートがついていなかったため喫茶店に場所を替えて3人で雑談。内容は、何かあったら連絡してこい、何もなくても連絡してきて構わない、部屋もちゃんとそのまま残してあるからいつ帰ってきてもいい、などの暖かい言葉をかけられる。泪を堪えるのに一苦労。昼休みを延長して迄付き合ってくれた父親とはそこでお別れ。またな、と言って父親は仕事に戻った。長く話してくれて有難う。感謝。白髪、増えていたね。ごめん。

 その後、母親がアイブロウペンシルとマスカラが切れていると言うので買い物に付き合う。途中にあったポール&ジョーに寄り、限定コンパクトミラーの在庫を訊くも普段からチェックしているブランドではなく逆にまだ発売日前とのこと。因ってそこでネイルカラーを2本購入。約1ヶ月遅れの母親への誕生日プレゼントである。その間にマスカラを購入していた親に渡す。長く水仕事をしてきて荒れて不恰好になっている手を親はやや恥じている。この手に塗っても……、と言う親に大高姐さんの心持で一喝。この手だから塗るのっ! 有難う、と受け取ってくれた。親が使っているアイブロウは、昔私が薦めたイプサの物。リニューアルしたことを伝え、エレガンスに切り替えては? と提案するもイプサに拘っていた。なら隣のデパートへと行こうとするも、親は少し離れたデパートへ行きたがった。商品券があるのでそれを使いたい、と。成る程、とそちらに向かいつつ親が紙袋からいろいろ出してくる。革の3連ブレスレット、凝ったビーズの指輪、そして細工の細かいシルバーと陶器でできたブローチ。小さい物ばかりなのは、うちのに今日会うことを伝えて欲しくなかった=家にあっても不自然ではない物、という気遣いだったのだろう。今日会うことは言ってきたの? と訊かれたときに、限定コスメを物色しに出かけると伝えた、と答えたのは正解だったようだ。現実には、うちのは私の今日の出かける正しい目的を知っており且つ昼に、そろそろ起きないと間に合わないよ! と電話をしてきてくれるという気遣いを見せてくれた。皆が私に気を遣ってくれている……。私は何もできていないのに。嬉しいやら情けないやら。親が拘っていたデパートに到着してイプサへ。イプサのカウンタでリニュ前のアイブロウペンシルを出してもらい、ストックを含めて親は2本購入していた。それじゃあまだあるけれどストック用にパウダーの方も、とお願いするも生憎そちらは品切れ。親は会計時に商品券を出さなかった。ん? 買い物後、あんた欲しい物は? と問われる。そういうことかあ。けれども何も想定しておらず、デパート内をふらふら。A.P.C.で可愛いスカートを見つけるも決め手に欠けたので保留。ふと目に入ったのがツモリの猫パッチワークの財布。可愛い! でもツモリの財布の札入れ部分は仕切りなしだし……うーん、あ、数年前に父親にクリスマスプレゼントにもらったA&Aの化粧ポーチがまだ壊れてはいないけれど年季が入ってきている。そろそろ買い替えてもいい時期かな、と売り場を見に行く。テリア柄の色違い発見。でも色味がイマイチ気に入らない。店員さんが言う。限定カラーなんですよ。限定……限定には弱い。でもやっぱりこの色は気に入らない。再び財布売り場に戻り、ツモリの財布に決定。最後の1点で在庫はないとのこと。でもいいや、とそれを買ってもらった。大事に使おう。そして隣のハンズに行き文具フロアにて、うちのに前から頼まれていたシステム手帳のレフィル購入。うちのの、とは言わなかった。うちのの為の買い物に付き合わされた、と親に思わせたくなかったから。会計を済ませ、トイレタリーフロアで親が気に入っているのに取扱店が少ない歯磨き粉を購入。私が払う予定だったのに払われてしまった。しかも私の分迄買ってくれてしまった。親がトイレに行っている間にそのフロアを眺めていると、ナイアードのビーワックスリップクリームを発見! ここにあったのか! 親は手も肌も唇も荒れている。会計をして、ハイ、と渡した。

 別の喫茶店でお茶を飲んでいるときに、親が私に白い封筒を渡してきた。中身はお札だ。お小遣いじゃないからね、と言われる。これは交通費。何かあったときに、どんな時間でも困らずに帰ってこれるように手をつけないように。了解。大事に保管しておこう。そして祖母の話。もう車椅子にも乗れなくなってきているそうだ。会いたい気持ちを伝えると、じゃあ一緒に今度会いに行こう、と。去年の、会ってくれるな、発言が解禁された。春頃に一度祖母の元に行こうという話になった。嬉しい限り。親との雑談の中で、うちのの過去が許せないのは解るんだけど、うちののことが全面的に嫌いなの? と訊ねてみた。イエス・ノー以外の返答。あんたが苦労をしそうな相手ではあると思う、あんたならもっといい男を見つけられそうなのに、あんたの全てをそのまま受け入れてくれる人がいるんじゃないの、とは思う。らしい。親は盲目。うちのの親も、私の親も。結婚は楽をさせてくれる相手とするものではなく、一緒に苦労をしてもいいと思える相手とするもの。お互いに不満は多々あれどもうちのは私にとってはいい相手だし、精神病のダラ似非奥をここ迄受け入れてくれる人は金の草鞋で探しても見つかるまい、と思っている。私がそう思えているのだからいいんだ、と思った。親が、嫌い、と断言しないということは、一部が嫌いなだけなのだろうということも何となく理解できたし。

 別のデパートのイプサに行き、アイブロウパウダーの在庫を探してもらうもやはり完売、別のデパートに迄電話で問い合わせてくれた。結局なかったけれども、親は満足げだった。別デパートに迄、こちらから頼まなくても問い合わせをしてくれるような親切さが、イプサに親や私を惹きつけるのだ。同デパートのアユーラに予約してあったパウダーを引き取りに行き、デパ地下で親は夕食の買い物、私は父親用のバレンタインチョコを購入。そして駅で見送り。帰宅して暫くしてから親から電話があった。今日はお疲れさま、いろいろ有難う、とお互いに言い合う。そして親が、またお茶飲もうね、と言ってくれた。去年の入院時の別れの際に、また、という言葉は親からも父親からも出なかったのに。うん、と答えた。そして叔母が今朝、私に誕生日おめでとうメールを送ってくれていると聞いたので、届いていないけれど叔母に電話してお礼を言い、春頃におばあちゃんとこに行こうと思っている、と話すと喜んでくれた。昨日の必要以上の苛々は、今日、親と会うにあたっての必要以上の緊張からのものだったように、今は思う。うちの、ごめん。うちのからも、両親からも、叔母からも祝ってもらえた誕生日。過去もずっとそうだったけれど、何ら変わりなく見えるけれど私には、今年の誕生日が過去最高の誕生日だった。

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