文化庁メディア芸術祭のマンガ部門で安達哲の「バカ姉弟」が優秀賞を受賞していた。安達哲は大好きな漫画家のひとりである。「キラキラ!」から読み始め、「ホワイトアルバム」に遡り、「さくらの唄」「お天気お姉さん」他、全ての作品を読んできた。秀作揃いの作品の中で、異彩を放っているのがこの「バカ姉弟」だ。安達曰く、また「さくらの唄」のような作品を描いて欲しいと言われることが多い。私もまた描いて欲しいと思う。安達は「バカ姉弟」という新分野を開拓しているのに過去の作品群のようなものを求められるのはイヤなようだ。「バカ姉弟」も素晴らしい作品である。これを読むと長閑な気分になれ、また苛立っていても和やかな気分にさせてくれる。α波の出る漫画とでも言えようか。けれども。私はやはり安達作品の中では「さくらの唄」が一番好きだ。「バカ姉弟」を除く作品群に通ずるものは、青さ・切なさだ。その極みが「さくらの唄」だと思っている。青春像を描いた漫画は数多ある。その中で最も青く、最も切なく、最も心に響く漫画はこれだ。このような漫画は安達にしか描けまい。少女漫画の名作と名高い「ホットロード」。あれも青く、切なく、心に響いた。「さくらの唄」との違いはどこにあるか。それは激しさに他ならない。鬱屈した思春期の少年を描かせたら天下一品の腕前を持つ安達。「ホットロード」も名作ではあるが、同程度の印象深さの漫画が他にないとは言えない。「さくらの唄」に似た漫画は他にはない。今後も出てこないであろう。「バカ姉弟」と同じ作者の作品とは思えないくらいに「さくらの唄」はいろいろな意味で激しい。「バカ姉弟」はいろいろな意味で和む。多彩な作品を創造できる人間は素晴らしい。でも。小さなカラー1カットで10万は高いだろうよ。その後、横浜の風俗街で明らかに無許可で絵を使っている、お天気お姉さん、という名の風俗店を見かけて無性に悲しくなったよ。1度一緒に仕事してみたかった。下記のよしもとにも依頼したけれど、多忙を理由に断られた。寡作なのに多忙って……。まあ依頼したのがエロ本だったから仕方なし。

 去年から星里もちるの新連載「ルナハイツ」が始まっている。1巻背表紙のキャッチには、ラブコメの第一人者が放つ新境地、ここに開幕!! と書かれている。は……? 星里が青年誌に移ってから一貫して取り上げているテーマは、居場所、である。「本気のしるし」もそうだった。何より「りびんぐゲーム」。これは居と個の居場所を関連させた作品であり、表現方法は違えど「ルナハイツ」と同じではなかろうか。何を以って新境地などと謳えるのか。全く解らない。掲載誌が変われば新境地になるのか? 読者をバカにしたキャッチである。担当者のレベルを疑う。星里はどたばたコメディを最も得意とする漫画家だ。新境地を拓きたかったのは「本気のしるし」だろう。けれど余り読者の支持を得られなかったと思われる。画風もやや変わり、どたばたはなく、過去の星里作品のファンはかなり離れてしまったのではなかろうか、と私は予測している。「本気のしるし」、某巨大掲示板の幾つかのスレでヒロインが私の諸事情と同じ病気ではなかろうかと言われていた。私もそう思っていた。ラストが近付くにつれ、ヒロインは強くなってしまった。星里作品のラストは常にハッピーエンドだ。途中まではヒロインに諸事情を背負わせていたと思われるが、そのままではハッピーエンドに導くには困難なので路線変更したのか。路線変更場面にさほど無理を感じないので、それでも読み応えのある漫画ではある。「ルナハイツ」は今後の展開に期待してはいるけれど、「りびんぐゲーム」と似通わないようにしてもらいたい。

 私は本が好きであり、漫画も相当数読んでいると自負している。好きな漫画家も多数おり、上記の安達・星里も勿論だが、その他にここで数人挙げたい。ひとりはよしもとよしとも。寡作なので著書の少ない、所謂サブカルの括りに入れられてしまう漫画家である。よしもとも切ない青春を描かせると滅茶苦茶上手い。絵柄が洗練されすぎており読み流され易いのが少し悔しい。代表作であろう「青い車」の表題作。小沢健二の「ラブリー」を途中に挟んでいる。この挟み方が絶妙! 書き文字で表現された歌詞が切なさの表現に多大に影響を与えており、ラストの投げやりさに上手く繋いでいる。「オレンジ」も構成で主人公の荒廃した心が切ない。4コマや連載物は余り上手ではないと思う。でも短編には秀作が多い。一読の価値あり。よしもとの作品を軽く読み流せてしまう人とは、私は仲良くなれない。断言。次に挙げたいのは二ノ宮知子。「トレンドの女王」は未読。編集者の指示通りに描いた漫画らしいので今後も読む予定はなし。友人と漫画の話をしていて、私が二ノ宮を余りに褒めるので驚かれたことがある。漫画に限らず、本を読むときの感想の基本は、面白いか詰まらないかだ。それが二ノ宮の漫画は違う。めっさ面白い>かなり面白い>面白いの3段階。ハズレがないので安心して読める物を描く漫画家なのだ。今、連載している「のだめカンタービレ」はかなり面白い。現在、掲載誌で新展開に向かいつつあり目が離せない。「天才ファミリーカンパニー」は去年、スペシャル版が出た。あちこちの書店で完売。どうにか全巻入手。何度読んでも面白い。二ノ宮作品で一番面白さが解り易いのは「平成酔っ払い研究所」だろうか。できれば文庫版ではない方で手に取ってもらいたい。文庫は表紙が余りにアレである……。最後に「ショムニ」の作者である安田弘之。「ショムニ」で安田を知ったつもりになって欲しくない。まずは「ちひろ」と「紺野さんと遊ぼう」を読んで欲しい。安田は漫画家というよりもイラストで漫画を構成しているかのように思う。その絵柄は「ショムニ」や現在連載中のものよりも上記2作で効果が引き出されている。

 今回挙げた漫画家は基本的にハズレ作品の少ない人たち。他にも挙げたい漫画家は多くいるが、当たりハズレが激しいので作品毎に書きたい。因ってそのうち、徐々に作品について書いていきたい所存。古屋兎丸とか町野変丸とか、白倉由美とか中山乃梨子とか、さそうあきらとかゆうきまさみとか、川原泉とか南Q太とか、安彦麻理絵とか桜沢エリカとか、唐沢なをきとか華倫変とか、喜国雅彦とか山本直樹とか、玉置勉強とか内田春菊とか。あ、町野はもうお家芸なのでハズレとかそういう問題ではないか。

BGM/「それで自由になったのかい」「山谷ブルース」「手紙」など

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